【完】この愛を、まだ運命だとは甘えたくない
「説明が遅くなって申し訳ありません。
私、市ヶ谷 孝守とるり子さんは20歳の時に結婚を約束した仲なのです」
「…結婚、ですか?」
ジッと私の瞳を見つめそう言った彼の言葉に嘘が隠されている様にはどうにも思えない。
「るり子さんがご主人と結婚される前に付き合っていたのが私です。
私達は互いに結婚の約束をしたのですが、私の両親が結婚に大反対して、そのまま引き裂かれてしまったのです。
私の家はボヤージュという会社を経営していて、私には両親から勧められる結婚相手と結婚するという道しかなかったのです。」
おばあちゃんから、そんな話聞いた事ない…!
「にわかに信じがたい話です…。 おばあちゃんから恋人の話も聞いた事はありませんし、祖父と祖母はとても仲が良い夫婦でしたから」
訝し気な瞳で彼を見ると、彼はにこりと目尻を下げて笑った。
「るり子が幸せな結婚生活を送ってくれていたのは私にとっても喜ばしい限りです。
勿論互いに違う相手と結婚してからは会う事は一度もなかったのです。それが互いにした約束の一つであったのですから。
だから真凛さんが想像するような不貞行為は私達の間にはありません。 私と別れた後るり子がご主人と幸せな生活を送ってきたのは真実なのですから」