【完】この愛を、まだ運命だとは甘えたくない
「ん…伊織さん…」
「伊織’さん’というのも気に食わない。 いつまで経っても他人行儀なのは止めろ」
「じゃあ…’伊織ん’?」
からかうようにそう言うと、彼が眉をぴくりと動かし不敵な笑みを浮かべた。
「それだけは死んでも止めて欲しい。 それはそうと、真凛は勘違いしているかもしれないが、彼女とはあの日何もない」
「分かっていますよ。 小早川さんが説明してくれましたから」
「お前は……碧人の言う言葉ならば信じるんだな」
「そういう事じゃなくって…! あの日はショックが強すぎて周りの言葉が何も聞こえなかったんです。
だから冷静になって小早川さんの説明を聞いたら納得したんです。
小早川さんの言葉は説得力があるから」
私を押し倒したまま、彼の指先の動きは止まる事がなかった。
けれど小早川さんの名を出すとぴたりと動きが止まる。 そして不機嫌そうに唇を尖らせるのだ。