【完】この愛を、まだ運命だとは甘えたくない
平気な顔をして、ありえない事を言う老人をぶん殴ってやろうかと思った。
けれどもしこの話を断ってしまったら一体どうなってしまうのだろうか。
母は一人で生きていけるようなタイプではないし、何よりもこの実家を手放す事だけは嫌だ。 かといって私の稼ぎでは母の借金を返す事は出来ない。
だからって…見ず知らずの人と結婚なんて話ないよ。
私の好きなように生活をしていいって事は相手だって私に興味があって結婚しようって話ではない筈だ。
きっと何か裏があるに違いない。 戦略家っぽいこの男の事だ。きっと孫息子である伊織という男にも何か条件を出したに違いない。
「真凛ちゃん、こんな良い話ないとお母さんは思うの!
だって玉の輿よ~。うふふ~。玉の輿~。お母さん、ボヤージュのお菓子だ~い好き!」
そういう問題ではない。 隣でにこにこと微笑む母に、怒りを通り越して呆れ返ってしまう。
この人本当に母親なのだろうか、大切な娘を自分の借金の肩に差し出すって事でしょう…?
そこまで考えると同時にこの母に母性を望む事がどれだけ愚かな事も思い出す。