【完】この愛を、まだ運命だとは甘えたくない

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マンションに向かう前に市ヶ谷さんと祖母のホームへ会いに行った。

驚く事に私や母の事さえおぼろげになっていた祖母の記憶は、市ヶ谷さんだけはっきりと認識していた。

そうして自分達の子供同士を結婚させるという約束も祖母は覚えていた。

産まれた子供たちが女同士だったわけだから、その古ぼけた約束は私達孫まで回っていたというわけだけど。

そして私は市ヶ谷さんに指定されたマンション前で、車を降ろされた。 母は私も混じりたいと子供のような事を抜かしていたが、ややこしい話になりそうだったので話し合いは二人でする事に決めた。

しかし指定された高層マンションを見上げ、さっそくこの場所に来た事に後悔し始めた。

都内の一等地に建っているタワーマンションは高級な高層マンションが建ち並ぶ中でも一つ頭を飛びぬけた高級っぷりだった。

お金持ちの考えている事は恐ろしい。 

大理石で出来た高級なロビーはホテルさながらの美しさだ。 ここが人の住むマンションだとは思えない。 塵一つ見当たらないロビーには、来客用だろうかソファーとテーブルが並んでいる。

ところどころに観葉植物が置いてあり、こちらも手入れが細部まで行き届いている。 窓も天井も首が痛くなるほど高い。

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