【完】この愛を、まだ運命だとは甘えたくない
無言のまま二人の話に耳を傾ける私は、聞こえないように小さなため息を吐く。
半年前、友人を介して紹介された和泉 蒼汰とは彼の猛アプローチの末付き合い始めて半年だった。
そして蒼汰の隣に何故かしたたり顔で座っている蛯原 桃菜は大学時代からの友人。 大学を卒業してから、就職先も同じで彼女曰く’親友’らしい。
「真凛ちゃん…本当にごめんねぇ…」
舌ったらずで甘い声を出す桃菜の零れ落ちそうな程大きな瞳には、涙がいっぱい溜まり赤く染まっていた。
典型的な狸顔。ぱっちりとした黒目がちな大きな瞳が頼りなく垂れている。
丸顔で頬がぷにぷにしていて、ピンク色に染まった唇を噛みしめる。 今日着ている夏物のブラウスも淡いピンク色。
パステルカラーがよく似合う女の子だった。 背も小さく顔も小さくて、男ウケをぎゅっと濃縮したような見た目をしているため桃菜は出会った頃から男性にモテモテだった。
「仕方がないんじゃん?」
吐き捨てるように言うと、テーブルの上に蒼汰から預かっていたマンションの合鍵を静かに置く。
涙の一つも出はしなかった。 人は自分の思い通りに動かない生き物だという事は、幼い頃から何となく知っていた。
泣きも怒りもせずに一切取り乱さない私を見て、蒼汰は少し安心したように胸を撫でおろした。