【完】この愛を、まだ運命だとは甘えたくない
市ヶ谷さんに言われた通りフロントに滞在しているコンシェルジュに名前を告げると、彼はスムーズに対応してくれた。
驚くべきはマンション内の高級さだけではない。 セキュリティーも数回に分けられている。
余りの高さにエレベーターに乗った瞬間不安になった。 …もしも今地震が来てエレベーターが止まったらどうなってしまうのだろうか。
「私マジでこんな所で暮らすっていうの?!」
だって私元々一般人だし、タワーマンションで暮らす友人だって周りにはいなかった。
普通のマンションとは全然違う。 ホテルさながらの清潔感のある広い廊下を歩いていくと、指定された部屋番号の前で立ち止まる。
すうっと息を吸って、吐くのと同時にインターホンを押す。 中から「どうぞ」と透き通った声が聴こえて、玄関のドアが開く音がした。
なんて綺麗な声なのかしら。 市ヶ谷さんの孫息子である伊織さんとはもちろん会った事はないし、顔も知らない。
けれど透き通ったふんわりとした口調には良い印象を抱く。