【完】この愛を、まだ運命だとは甘えたくない
間抜けな声が二つに重なった時、玄関からドタバタとした騒がしい音が聴こえた。
背中に生暖かい物を感じ嫌な予感がした。
そういえばこの人さっき’真凛さんが’伊織’を気に入るかは分かりませんが’と言った。
自分で自分を名指しで呼ぶだろうか。 それにいまいち話が噛み合っていなかったような気がする。
不思議そうに瞳を瞬かせる伊織さん?と、 バタバタと騒がしい音が玄関からしたかと思えば、リビングの扉が乱暴に開かれた。
警告音が鳴っている。 今後ろを振り向かない方が良い、と。
「何だ、思ったより早く到着したようだな」
少しだけ掠れた威圧的な声が後ろで響く。 目の前の男性は苦笑いをしながら立ち上がる。
「伊織、お前が遅いんだ。 お客様を待たせるな。 ただでさえ今日が初対面だっていうのに」
「はぁー…今日は空き店舗を何件か見回るって言ってただろう。 じーさんめ立地条件の悪い場所ばかり提示してきやがって無駄足だった。
それにしても疲れた。」
「それはそれはお疲れ様でした。 けれど女性との約束に遅刻してくるのは余り感心しないけどな」
「俺にとって結婚相手が誰であろうがあんまり興味がない。それにこれでも急いで来た方なんだぞ?」