【完】この愛を、まだ運命だとは甘えたくない
蛇に睨まれているかのように動けなくなった。 偉そうで高圧的な態度。 足を大きく拡げ顎を上げる。
私が伊織さんだと思っていた彼とは大違いだ。 透明感があり、綺麗な顔立ちをしている男性だったが、とにかく感じが悪い。
先程までとは打って変わったピリピリとした空気感が辺りを包む。 まさか、と思った。
「ふぅん…。思ったより普通じゃん。 すっげえ不細工が来るかと思ったわ。
とはいえ全然タイプじゃねぇけど」
吐き捨てるようにそう言った彼が、本物の市ヶ谷 伊織だと理解はしたくなかった。
ぞわりと背中に鳥肌が立って、体中が震える。 そこに珈琲を持ってきた彼がやって来た。
「おい、伊織。あんまり怖がらせるな。お前はただでさえ第一印象が悪いんだから…
真凛さんすいません。 もしかして僕の言動で何かを勘違いさせてしまったのかもしれないですけど…
僕はボヤージュの社員で伊織の秘書をつとめています 小早川 碧人と申します」
「あは……です、よね?」
こんなうまい話あるとは思っていなかった。
素敵な彼…!タワーマンションで何不自由ない生活!こんな彼なら契約結婚でも悪くないかも!そう思った自分を殴りたい。
勝手に勘違いしたのは私だ。