【完】この愛を、まだ運命だとは甘えたくない
目覚めたのは朝の七時だった。
伊織さんの秘書であるという同い年の小早川さんが用意してくれた部屋には大きなベッドと一通りの家具が用意されていた。
どれもセンスがあって高級品で固められている。
伊織さん名義のブラックカードを預けられたけれど、それに手をつける気はない。
勤めていた家具メーカーを辞めたのは、あくまでも桃菜と離れて新しい生活を始める為ですぐに就職活動をしようと思っていた。
ちなみに桃菜にも会社にも結婚するとは告げていない。 逃げるように会社を辞め、知り合いからの連絡を絶った。
「もう仕事に行っちゃったんだ。 本当に仕事人間なのね……」
がらんとしたリビングには人の気配がなかった。 これもこのマンションで暮らし始めていつも通りの事。
伊織さんは殆ど家には居ない。 居たとしても私が起きる前に仕事に出て、寝てから仕事に帰ってくるの繰り返しだった。
まさに名ばかりの夫婦というわけだ。