【完】この愛を、まだ運命だとは甘えたくない

身内だけの結婚式は異様な雰囲気に包まれていた。

伊織さんのご両親は私には一切興味がないようだったし、互いの親族同士和気あいあいといった雰囲気でもなかった。

まるでお葬式のように形だけ執り行われた結婚式で
唯一伊織さんの兄である三織さんがフレンドリーに接してくれた。 ボヤージュの次期社長になるという彼は、顔も雰囲気も伊織さんとは似ていなくどちらかというと近寄りやすいタイプの人間だった。

それともう一人、市ヶ谷さんだけは物思いに浸っており、私達の結婚を涙ながらに喜んでくれた。彼はホームに入っているおばちゃんにも嬉しそうに結婚写真を届けた。
とにもかくにも異様な結婚式だったのは覚えている。

私はこれからどうなるかだけに怯えていた。
市ヶ谷さんとおばあちゃんの望み通り、私と伊織さんは結婚をした。

そこで使命は果たされたような気がする。 これ以上自分が何をすればいいか、どうやって生きていいかは分からなかった。

私と伊織さんの間に愛はない。ならばこれから先の事を二人できちんと向き合って話すべきなのではないだろうか。

何はともあれ、市ヶ谷さんとおばあちゃんの願いは建前上は叶えたんだ。

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