【完】この愛を、まだ運命だとは甘えたくない

「まさか…私……」

伊織さんは着ていたティシャツを捲り上げる。 贅肉一つないしなやかな体だ。ってそうじゃなくって!

伊織さんのお腹や背中には痛々しい痣がついている。 私の体の青あざよりずっと大きい。

「昨日君が俺を殴ったんじゃないか。 ぎゃーぎゃーと喚き散らし、殴るは蹴るは…止めるの大変だったんだぞ?
君は酒乱か…?
かと思えばふらふらと一人で壁に激突したり体中をぶつけて
俺がベッドに運ぶまで、それはそれはすごい暴れっぷりだった…」

最悪だ。
何を自分がしでかした事を人になすりつけていたのだ。 DV野郎は私の方じゃないか。

曖昧だった記憶が所々頭に浮かび上がる。 段々と記憶が確かになっていく。
確かに昨日お酒の入った私は散々伊織さんに暴言を浴びさせ、殴ったのだ。

ぞくりと背筋に冷たいものが走る。  言い訳かもしれないけど、私は我慢強いタイプの人間だとは思う。

しかし一度お酒でやらかした事がある。 それ以来自分を見失う程お酒を飲まないと誓ったのに。

「伊織さんがベッドまで運んでくれたのですか?」

「そうだよ。 すっげー重かった。」

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