【完】この愛を、まだ運命だとは甘えたくない
とはいえ、今は桃菜の事ばかり考えているわけにはいかない。
「ごちそうさまでした。」
両手を合わせそう言った伊織さんは今日も私の作ったご飯を残さずに食べて、食器をキッチンへ持っていく。
さすがというかなんというか…
口はどれだけ悪く人間として欠落した部分があるとはいえ、礼儀作法は一通り身についており彼の食事姿は思わず見惚れる程美しかった。
しかし胸のモヤモヤは止まらない。
「あの……」
「何だよ。」
「…別に何でもありませんけど…」
「それなら結構。 俺は持ち帰りの仕事があるから部屋に行く。
あ、後で碧人が来るから来たら俺の部屋に通してくれ」
「はい…分かりました」
そう言って彼は自室へと入って行ってしまった。
伊織さんが家で仕事をするようになって、秘書である小早川さんが24時間いつでもうちへ出入りする事は珍しい事ではなかった。
それには何の不満もない。寧ろ小早川さんの方がいつも申し訳なさそうな顔をしている。
むしろこちらが気の毒になるほど気を使われてる。
けれど一緒に食事を取る様になって一週間、胸のモヤモヤは募っていくばかりだ。 そしてそれをずっと言い出せずにいた。