【完】この愛を、まだ運命だとは甘えたくない
「俺は甘い物が嫌いだ!」
「私が食べたいんですよ。 誰も伊織さんにあげるなんて言ってません。
それよりも早くソファーに座って下さい。 こんなにゆっくりと伊織さんと話せる機会はないんですから
私、伊織さんに訊きたい話が沢山あるんです…!」
キッチンに行ってお茶の準備を始めようとすると、伊織さんが私の背中に申し訳なさそうな声を投げかけた。
「……俺が食事中に喋らない事も…疑問に思ったのならば碧人に言うんじゃなくって俺に言ってくれ。
別に君に嫌な気持ちをさせたかったわけじゃない。
君は俺に物事をハッキリと言う癖に、肝心な事を言ってくれない。 だからこれからは気が付いた時は都度言って欲しい。
そうじゃないと…俺はあんまり人の気持ちが分からないから」
ぶっきらぼうだったけれど優しい言葉に、彼に顔を見せないように笑った。
確かに私は肝心な時に我慢をしてしまう癖がある。 平気な振りをしてやり過ごす事も癖になっていた。
けれど今日勇気を持って伊織さんに喋りかけたら、彼はきちんと返してくれた。 言葉が足りないだけで実は優しい人なんだ。
もっと自分の気持ちをちゃんと伝えよう。 契約上の結婚なのだからと諦めてしまわずに、彼の事を知ろう。
そう思い始めたのは、きっと彼の事を知りたいと思い始めたからだ。