Forever Dreamer
翌日、半日で学校が終わり、真弥は約束どおりに校門で姉を待った。
「ごめんね、このままでいいから行くよ」
美弥はまた真剣な顔になって、真弥の手を引いて歩き出した。
「お姉ちゃん、どこに行くの?」
「行けば分かるよ」
「昨日から変だよ? 何があったの?」
真弥は姉の表情に、寂しそうな表情が出ているのを見逃さなかった。
「すぐに分かるよ。途中でお昼にしちゃおう」
駅に着いて、普段二人が買い物などに行くのとは反対方向に乗った。電車で揺られて30分ほど。郊外のベッドタウンの駅に二人は降りた。
彼女たちの地元とは違い、駅前もそれほど開けているわけでもなく、大型スーパーが一つあるだけ。あとはマンション群と、その周りの一戸建てが集落を作っている。
駅前で簡単な昼食を済ませ、妹の制服をもう一度整え直す。
「行きましょう……」
美弥は真弥の手を引いて、ゆっくりと歩き出した。
「よく覚えておいた方がいいかも……」
美弥は呟く。これから起こるであろう光景を考えると、気が重くて仕方なかった。
「ここ……」
駅から10分くらい。建物の前で美弥は、妹の手を引くのを止めた。
「ここって……病院……?」
真弥は大学病院の名前が表示されている建物を見上げた。
何も言わずに自動ドアを開けて入っていった姉を追いかける。
外来待合室で、美弥は待ち合わせていたらしい一人の女性と挨拶を交わしていた。
「真弥、ご紹介するわ。坂本伸吾くんのお母さまよ」
「はじめまして……。葉月真弥です」
紹介されるまでもなかった。その女性を見たときから、真弥の中には懐かしいような、不思議な気持ちが流れ込んでいたから。
「あなたが葉月さんね。ほんと、伸吾の言っていたとおりね。あの子が一目惚れしたのもわかる気がするわ」
「言っていた」。その言葉に敏感に反応してしまう。なぜ過去形なのか……。
そして、美弥が自分をここまで連れてきてくれた意味。
それまでバラバラだった情報が少しずつ集まって、ひとつの仮定を導き出しつつある。
三人はそれ以上の言葉を発することなくエレベーターに乗り込んだ。
入院経験も豊富な真弥のこと。エレベーターを降りたのは、長期入院の患者さんが多いフロアだと瞬時に感じ取る。
急変などはないけれど、退院までの見通しがつかないから、見舞いにくる人も少ない静かなフロアだ。
同時に、ここから無事に退院する人も少ないのだとも。
「妹さんに話はしてあるの?」
「いいえ。私が話で聞かせるようなことではないと思いました」
美弥の硬い表情とこの病院という場所。それらをあわせてみても、あまり良い情報ではないことは想像ができる。
「そう。それなら、私からお話しするわ」
立ち止まった場所の病室に掲げられているネームプレートを見て思わず身震いする。
『坂本伸吾』
真弥が探し求めていた名前は、こんな所に書かれていたのだから……。