優秀な姉よりどんくさい私の方が好きだなんてありえません!
物陰でストッキングを脱ぎ、戻ってくると椅子にちょこんと座った。
壱哉さんは消毒液で傷口を消毒してくれた。
昔から、よく転んでいたから、面倒見のいい壱哉さんに手当てをしてもらったのを思い出していた。

「懐かしいですね」

そうだな、というように壱哉さんが頷いた。
絆創膏をはってもらうと、不思議と痛みが引いたような気がした。

「入社おめでとう」

「あっ、いえっその!私、コネ入社というかっ!水和子(みわこ)お姉ちゃんが頼んでくれたおかげで、なんとか入れてもらえたんです。でも、一生懸命頑張ります!掃除だとしてもっ!」

「掃除?」

壱哉さんは不思議そうな顔で首をかしげた。

「それじゃあ、入社式があるので行きますね!本当にありがとうございました!また社内で会うこともあるかもしれませんが、ご迷惑をおかけしないように精一杯頑張ります!」

深々とお辞儀をして部屋から出た。
うー……。顔が赤くなっているのがバレてないといいけど。
やっぱり、壱哉さんはすごくかっこいいなあ。
昔から私が困った時は助けてくれるし、なんでもできるし、イケメンだし―――私の憧れの人だった。
そう。憧れ。
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