優秀な姉よりどんくさい私の方が好きだなんてありえません!
マンションから別荘までたくさん持っている。
杏美(あずみ)ちゃんの誕生会だけでも何ヵ所か行ったことはあるけれど、この家だけはパーティーで使われることのない場所で壱哉さんが私をよく連れてきてくれた。

「家の中は通いの家政婦が管理してくれるし、庭の手入れは人を頼んである。家も庭も日奈子の好きなように使っていい」

出窓に寄りかかり、言った壱哉さんは微笑んだ。
洋館の中は住むことが決まっていたかのようにリフォームを終えていた。
出来すぎというくらいに用意周到でカーテンやクッションは私が好きそうな物を集め、テーブルや廊下には庭で摘んだ花が差してあった。
魔法使いみたい。
洋館の中を見渡すとアンティーク調の内装にステンドグラスが入った窓、木の階段はつやつやしていて、痛まないように赤い絨毯が敷かれている。

「気に入ったか?」

「はい」

サンルームにピアノが置かれていた。

「ピアノ……」

うっと嫌な思い出が甦った。
水和子(みわこ)お姉ちゃんも緋瞳(ひとみ)お姉ちゃんもソナチネまでいったけど……。
私はバイエルの途中で挫折した。
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