優秀な姉よりどんくさい私の方が好きだなんてありえません!
そう答えて、慌てて部屋を出て行く杏美ちゃんを見送ると、壱哉さんは言った。

「杏美はなんて?」

「杏美ちゃんは私を心配してくれてるんです。意地悪とかじゃなくて」

「そうだな」

壱哉さんはわかっているみたいだった。

「壱哉さん。私、精いっぱいがんばりますから。そんな顔しないでください」

「顔……」

「わかります」

二人に心配をかけてしまって、申し訳なく思った。
私がしっかりしていれば、いいだけのことだから。

「壱哉さん!私、壱哉さんにふさわしくなりたいんです」

「日奈子」

「だから、私になんでも言って下さい。壱哉さんだけが頑張らなくていいように」

お願いします!と頭を深々と下げた。

「頼むのはこっちのほうだ」

頭を下げていて、顔は見えなかったけれど、その声はとても優しかった。
< 139 / 302 >

この作品をシェア

pagetop