優秀な姉よりどんくさい私の方が好きだなんてありえません!
「無理よ」

「……でもっ!」

「それを言うために呼んだの?」

杏美ちゃんはイライラしながら、私に言った。

「そ、そうだよ……」

「ドン子になにがわかるの?」

杏美ちゃんにそう言われて、安島さんの言葉が重なった。
『君には理解できない世界だよ。きっとね』

「わからないけど。でも、杏美ちゃんが幸せになれないなら友達として止めたいと思って」

「お節介よ」

冷たく杏美ちゃんは言うとバッグを手にした。

「あ、杏美ちゃん!」

「尾鷹に生まれたからには責任がついてまわるの。町の人達や会社で働く人達、親戚―――それを背負って行けるの?ドン子こそ、よく考えなさいよ!」

「ま、待って!杏美ちゃん!」

背中を向けたまま、家から飛び出して行った。
追いかけようとしたけど、足がもつれて椅子に引っ掛かり、転んでしまった。

「い、痛っ」

こんな大事な時まで私はうまくやれない。
自分はなんて鈍臭いのだろう―――悔しくて涙がこぼれた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「杏美、帰ったのか」

「はい」

食べかけのアップルパイを見て、壱哉さんは何かを察したようだった。
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