優秀な姉よりどんくさい私の方が好きだなんてありえません!
壱哉さんとのことで私もすっかり有名人で視線が痛いし、拓けた場所にある時計の下は目立つ。
杏美ちゃん、早く来てくれないかなあと思っていると、一時間経ってもこなくて、スマホにかけてみた。
でない。
まさか、何かあった?

「どうしたんだろう……」

二時間経って、ぽつぽつ雨が降ってきて、体も冷たくなり、さすがに三時間で諦めようと時計を見た。
杏美ちゃん―――私との約束、忘れちゃったのかも。
それとも、もう私と友達をやめたいから?
泣きたい気持ちで時計の数字を眺めていた。

「帰ろう……」

フラフラと痛む足をひきずりながら、時計の下から動くと、ちょうど残業終わりの壱哉さんが会社から出てきた所だったらしく、車から降りて駆け寄ってきた。

「日奈子!?どうしてここに?」

「ちょっと杏美ちゃんと待ち合わせしていて」

壱哉さんは驚いて、ハンカチで顔や髪を拭いてくれ、車にのせると、自分のスーツの上着をかぶせた。

「すみません。服が雨でぬれてて…」

「気にしなくていい。あんな場所で杏美と待ち合わせを?」

「秘書室の人から待つように言われて。でも、きっと用事ができたんですよね。私ももっと早く諦めて帰るべきでした」

この決断力の鈍さが悪い……。
仕事で疲れている壱哉さんに迷惑をかけてしまった。

「日奈子は悪くない」

壱哉さんは怖い顔をしたまま、黙り込んでいた―――

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