優秀な姉よりどんくさい私の方が好きだなんてありえません！
「裏切る！？」

「駆け落ちし、恥をかかされたと騒いで尾鷹に責任をとるように要求してきた」

「そんな」

「元々、父が社長なのをよく思っていなかったからな」

「おじ様、社長じゃなくなるんですか！？」

「その可能性はある」

「もし、おじ様が社長じゃなくなったら、次の社長は誰が？」

「安島だ」

「あ、安島さん！？どうして？壱哉さんは？も、もしかして、私のせいで」

「日奈子のせいじゃない。この間、食事の招待状を拾っただろう？」

「はい」

確か内容は高級料亭での食事会だった。

「あの食事会は安島が他の役員に対して根回しをするために用意した場で、安島はじわじわと役員達を懐柔(かいじゅう)していたらしい。すでに役員のほとんどが安島派だろう」

あの廊下に落ちていた招待状がそんな重要な意味を持つものとは知らなかった。

「父は間違いなく、社長から引きずり落とされる」

壱哉さんは険しい顔のまま、私を痛いくらいに抱き締めた―――
その目はどこか遠くを睨んでいた。
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