優秀な姉よりどんくさい私の方が好きだなんてありえません!
壱哉さんは疲れているのかもしれない。
帰り支度をし、部屋から二人で出ると周りに秘書室の女の人達を(はべ)らせて歩く安島さんと遭遇した。

「やあ、壱哉」

壱哉さんは無表情で安島さんを見ていた。

「今から、お前の所に行くつもりだった。祝いの言葉をまだ言われてなかったからな」

「おめでとうございます。これでよろしいですか?」

抑揚のない声で壱哉さんは言うと私の手をつかみ、歩きだした。

「待て。壱哉」

「なにか?」

「仕事を終わらせてから帰れ」

「今日の仕事は終わりましたが?」

壱哉さんがそう言うと、安島さんは隣にいた秘書から書類を引き抜き、壱哉さんに投げつけた。

「拾え。拾って、それをコピーしておくんだな」

壱哉さんはすっと目を細め、冷えた目で安島さんをにらみつけた。
その迫力に怖じ気づきながら、安島さんは床を指差した。

「さっさとしろ」

いっ、壱哉さんに命令!?
もう許せないっ!

「安島さんっ!!壱哉さんにひどいことしないでください!」

ドンッと安島さんを突き飛ばすと、下に散らばった書類をかき集め、壱哉さんの手をひいて、その場を離れた。

「日奈子」

「壱哉さんが怒らないからです」
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