優秀な姉よりどんくさい私の方が好きだなんてありえません!
「すみません。あの、遅くなってしまって」

お弁当をテーブルに置き、広げると壱哉さんは優しい表情を浮かべて微笑んだ。

「平気だ」

水筒にお茶を持ってきたので、熱いお茶をコップに注いで壱哉さんに渡した。
お弁当のいなり寿司を取り分けながら、窓の外を見た。
社員の気分転換になるように会長が高い階層作った社食は眺めがよかった。

「社食の窓からはいつもと違う風景が見えていいですね」

「そうだな。こういうのも悪くない」

「お茶、おかわりありますから」

「ああ。豚肉のオクラ巻き、美味しいな」

「照り焼き味にしました」

二個目のいなり寿司に箸を伸ばした瞬間―――

「壱哉!どうして役員室にいないのよ!お昼は私が用意すると言ったじゃない!」

水和子お姉ちゃんの声が社食に響き渡った。
「尾鷹専務じゃないのか?公私の区別をつけろと日奈子に自分が言ったことだろう?」
周りの社員はハラハラと事の成り行きを見守っている。
「昼休みの時間の使い方は個人の自由だ。休ませてくれないか?秘書ならな」
顔を赤くした水和子お姉ちゃんは壱哉さんを睨み付けた。
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