優秀な姉よりどんくさい私の方が好きだなんてありえません!
思い余って、呼び止めてしまった。

「社長から、クビだと言われました」

「そんな!」

「秘書室の皆さんは私を嫌っていますから」

クビで当然ですというように今園さんは去ろうとしたのを手をつかんで引き留めた。

「今園さんがいなくなったら、会社はどうなるんですか!」

「仕方ありません。私はただの秘書で社長がいらないというのなら辞めるしかないでしょう」

そう言うと、背中を向けて今園さんは背筋を伸ばしたまま、歩いて行った。
そんな―――このままじゃ、優秀な人がいなくなってしまう。
もう夏なのに寒ざむしい空気を肌に感じていた。
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