優秀な姉よりどんくさい私の方が好きだなんてありえません!
壱哉さんは真剣な目で私を見つめ、手を持ち上げて手の甲にキスをした。
まるで、騎士みたいに。

「いっ、壱哉さん!」

「返事は?」

「わっ、私で大丈夫ですか?」

「もちろん」

壱哉さんが笑ったのを見て、ホッとした。
壱哉さんが大丈夫なら、きっとやっていける。
そんな気がした。

「それなら、お受けします」

深々と頭を下げた。

「ああ」

壱哉さんは嬉しそうに手を包み込んだままだった―――

「おめでとう」

「よかったわね」

いつの間にやってきたのか、シェフとシェフの奥様が拍手をしていた。

「長かったなあ」

「いつも、どうなるか心配していたのよ」

「そんな前から!?」

「ずっと見守ってたわよ」

「初めてこの店に連れてきた時から、この子は壱哉君の特別な子なんだとわかったからね」

二人はお祝いのケーキをだしてくれた。
壱哉さんはわかりにくいけど、二人に言われたのが恥ずかしかったのか、珍しく照れて、目を少しだけ伏せていた。

「ありがとうございます」

私は壱哉さんと―――そして、ずっと見守っていてくれた二人にお礼を言った。
食べたケーキはいつもと同じケーキなのに今までで、一番おいしかった。
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