優秀な姉よりどんくさい私の方が好きだなんてありえません!
一緒にいてくれるだけで十分だ―――俺は。
そう何度言っても日奈子はわかってくれない。
俺の気持ちに気付かない。
嫉妬していることもその純粋さを羨ましいと思っていることも。
彼女を鈍いと人は言うけれど、そんな君が俺は昔から好きだ。
だから――

「そのままの日奈子でいい」

―――と耳元で囁くと慌てた日奈子は小石につまずき、転びかけた。

「危ない」

「危ないのは壱哉さんですっっ!!い、いきなりそんなっ」

耳元で囁くなんて焦りますと小さな声で日奈子は言った。

「悪い」

「でも、ありがとうございます。そのままでいいなんて。壱哉さんしか言ってくれませんから」

そんなことはない―――日奈子が気づいていないだけだ。
その可愛らしさに俺はにっこりしたのだった。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「―――ということがあったんだ」

「……へえ」

俺は自慢げに渚生に日奈子の可愛い若奥様ぶりを説明した。
いつものバーに渚生を呼んで。

「急に呼ぶから何かと思ったら、ただの惚気を聞かされるという苦行かよ」

「お前も新婚だろう?今園は元気か?」

「元気だけど。仕事が忙しくてあんまり会えてない」
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