優秀な姉よりどんくさい私の方が好きだなんてありえません!
私達二人が付き合っていると周りは思っている人も多いけれど、実は違う。
私が密かな恋心を一方的に壱哉に抱き、追いかけているだけ。
彼に相応しい相手であるために勉強もスポーツも必死でやってきた。
そして今は仕事を。
そのおかげで、彼の相手として申し分ない存在になれた。
それなのになぜ?
手を繋ぎ、去っていく二人を眺めているなんて。
呆然と立ち尽くしたまま、壱哉と日奈子の背中を見送った。

呑海(どんみ)主任?」

「えっ……!ああ、ごめんなさい。広報部に案内するわね」

仕事中だというのにすっかり自分の役目を忘れていた。
日奈子を入社させたのは私だった。
就職活動が全て失敗に終わり、このまま、無職でいるのも可哀想だと思って尾鷹(おだか)家に頼みに行った。
でも、実はそれは口実で壱哉に会いたかったから。
会社では広報部主任と専務ではフロアも違うし、なかなか会えない。
たまに会ったら話はするけど、それだけ。
日奈子が働くなら、尾鷹の子会社で雑用係くらいだろうと思っていたのに本社勤務でしかも壱哉の秘書になるとは思ってもみなかった。
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