優秀な姉よりどんくさい私の方が好きだなんてありえません!
「は!?何言ってるの!?私は日奈子に会わないし、連絡もとらないって決めてるのよ!どんな顔で会えるっていうのよっ!」

「書け」

包丁を持ち、ジャガイモを手にしたお兄様に凄まれて、私はまるで反省文でも書かされているかのような姿で日奈子に手紙を書くはめなった。
日奈子。
お兄様でよかったの?
そう手紙に書きたかったけど、カレーの匂いがしてきて、我慢した。
お兄様のカレーは完璧で作り方通り。
手紙を手に入れると、お兄様は言った。

「杏美。尾鷹の家に戻ってきて生活してもいいんだぞ。もちろん。貴戸も連れて」

「それだけはお断りよ。私にもプライドがあるの」

戻らないと一度は決めたのだから。
私はもう貴戸杏美。
『なにもできないので帰ってきました』なんて言えるわけない。
私が日奈子と離れるって決めた覚悟はそんな生易しい覚悟じゃないんだからっ!

「そうか」 

お兄様は笑ってアパートから出て行った。
たぶん、私がそう言うのがわかっていたのだと思う。

「大変!ご飯、炊かなきゃ!」

お米くらいはもう炊けるのよ。
私も成長しているの。こうみえて。
そうね、せめてカレーくらい作れないと日奈子には会えない。
鍋にはお兄様が作ったカレーから白い湯気があがっていて、一口だけ味見してみた。
お兄様のカレーは美味しかった。
腹が立つくらいに。
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