優秀な姉よりどんくさい私の方が好きだなんてありえません!
呪いを?
それなら、いつかこの呪いが解けるというのだろうか。
ずっと私を苦しめ続ける安島家での記憶が消える?
まさか、そんなこと絶対にない――――そう思って、顔をあげると間近に綺麗な顔があった。
近寄ってきた顔を避けることができず、唇が重なった。

「王子のキスで呪いは解けるらしいよ?君が結婚できますように。じゃ、おやすみー」

なに―――?
今のは?
ポカンとして、その場に立っていた。
何が起きたのか、さっぱりわからずに。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「おはようございます」

朝、受付にいくと野々宮さん背筋を伸ばし、いつもと同じ笑顔を振りまいていた。
あれほど飲んだのに通常営業。
やはり彼女は魔女かもしれない。

「今園室長、おはようございます」

受付前に行くと、昨晩とは同じ人間とは思えないくらい作った顔になんとも言えない気持ちになる。

「おはようございます。野々宮さん。昨晩は帰宅できましたか?」

一瞬、野々宮さんの顔が崩れそうになり、笑みを浮かべたような気がした。
受付用の作り笑いではなく。本物の笑み。

「え、ええ。店長に送って頂きました。ご心配おかけしてもうしわけありません」

これは―――珍しい。

「今園室長こそ、帰宅できました?」

「えっ……!」

昨晩のキスを思い出し、わずかに動揺してしまった。
あら、と野々宮さんが小さく声をもらした。

「ご心配には及びません。帰ることができました」

「そうですか。それはよかった―――」

お互い静かに笑みをかわした。
私達は魔女。
それ以上は踏み込まないし、立ち入らない。
私は秘書室、彼女は受付でトップにいるのだから、変な噂なんてもってのほか。
呪いを解くには王子様のキスがまだ足りないようだ。
―――出直してくることね。
姿勢をただし、真っすぐに秘書室へと歩きだした。
いつものように。
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