優秀な姉よりどんくさい私の方が好きだなんてありえません!
その若様が選んだのが、お世辞にも優秀とは言えない女性で平均点にやっと届くかどうかというくらい平凡にも平凡な方だった。
それに加え、ドアにぶつかったり転んだりと忙しい方で、あれが世に言うどんくさいというものだろう。
その日奈子さんを壱哉さんも―――そして野月さんも好意を持っている。
そして、今日、滅多なことではお願いしない壱哉さんがお願いという言葉を使い、私はここにいる。

「さしずめ、俺は王子に命じられてお姫様をさらいにきた従者かな」

野月さんは自嘲気味に笑っていた。
何度か飲み、その席できいた話に寄ると日奈子さんは壱哉さんに恋心を持ち、野月さんのことはお隣の家のお兄さんと思っているらしい。

「私が日奈子さんをお連れしましょう」

そう申し出たのは彼への同情心からだった。

「俺が木に登るって言ってるだろ?」

「私が。貴方はうるさすぎます。家の者に気付かれる恐れがあります」

「おい、二人ともやめろ。木に登るな。日奈子が怪我をしたら、どうする。梯子を使う。渚生、日奈子を連れて外にでたら公園まで送ってくれ。今園は使った後の梯子を回収し、片付けろ」

「それが妥当だよ」
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