優秀な姉よりどんくさい私の方が好きだなんてありえません!
ぶつけた頭が痛かったけれど、それを我慢して壱哉さんに尋ねた。
あくまで冷静に。

「いや、お前の調子が悪いならやめておこうか。疲れているんじゃないか?」

「いつもどおり、まったく疲労しておりません。ご心配無用です」

「……いや、お前、さっき頭ぶつけていただろう?」

そんな壱哉さんの言葉を無視した。

「ご用事を伺います」

「あ、ああ。日奈子に一通りのマナーを教えてやってほしい」

「わかりました」

壱哉さんの言葉に頷いた。
日奈子さんを尾鷹の奥様とするにはそれ相応の作法と知識を身につけさせる必要がある。
私は会長夫妻のご厚意により、一通りの習い事はさせていただいていた。
それを知ってのことだろう。
尾鷹家の妻として相応しく日奈子さんを育て上げる―――ように努力しよう。
時間はかかりそうだけども……。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

日奈子さんは必死だった。
壱哉さんや渚生が好きになるのもわかる。
素直で可愛らしく、健気に頑張っているのが見てとれた。
他人に対し、感情を持たない私が尾鷹家のためとはいえ、親身になることも珍しい。
着付けをまず覚えて頂こうと思っていると―――
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