優秀な姉よりどんくさい私の方が好きだなんてありえません!
「あの今園さんはどうして色々できるんですか?」

色々できる?
私が?
そんなことを思ったことはない。
安島家では役立たずの暗い女だと罵られていたせいだろうか―――自分は人より秀でていると思えたことはなかった。
もし、私が色々できる人間に見えるというならば、会長夫妻がそんな私に育てて下さったいうことだ。

「会長夫妻より、教育を受けましたので」

「会長夫妻から!?」

「はい。私の母が亡くなり、親戚宅で暮らしていたのですが、うまくいかずにいたのを見かねた会長夫妻が引き取って下さったんです」

「今園さんでもうまくいかないことってあるんですか?」

日奈子さんにそんなことを言われて、どきりとした。
そして、言われた時、最初に浮かんだのは安島家ではなく、別れ際に見た渚生の悲しい顔だった。

「たくさんありますよ」

「誰にでも苦手なことはあります」

日奈子さんは不思議な人だ。
こちらを素直にさせてしまう力があるのかもしれない。
壱哉さんが彼女の前で自然に微笑むのも無理はない。
日奈子さんとの着付けの練習が終わり、マンションに帰った時、スマホを手にした。
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