優秀な姉よりどんくさい私の方が好きだなんてありえません!
「ごめん。あの時、怒らずにきちんと聞けばよかった」

「いえ、私も言葉が足りませんでした」

「けど、驚いた」

「え?」

「日奈子ちゃんと同じことを言うんだからさ。学芸会で王子をやるのが嫌で隠れていたら、日奈子ちゃんがきてさ。俺の王子をみんな待ってるって言うんだ。王子をやる俺を見るのが楽しみでお隣のお兄さんがそんなすごい人なんだって、みんなに自慢できるって言われた。学芸会の王子様で自慢されてもカッコ悪いと思って、それで俳優になった」

日奈子さんの名前を聞くと少し胸が痛んだ。
渚生の中では特別な存在なのだと―――これが嫉妬?

「今、嫉妬しました。日奈子さんに」

嬉しそうな顔で渚生は笑った。
その顔を見たら、素直になるのも悪くない。
そう思えた。

「日奈子ちゃんは大切な妹だよ。そして、親友の奥さんになる人」

「……親友」

「壱哉には言わないでくれよ。ぜったいに!」

「そこは素直になってもよろしいのでは?」

「嫌だ」

これが男同士の友情というものだろうか。
男心は複雑だ。

「俺が今好きなのは―――わかるよね?」

悪い顔。
相手の方が有利だ。
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