優秀な姉よりどんくさい私の方が好きだなんてありえません!
どこまでが本気で嘘なのかわからない。
だって彼は役者だから、きっと演技がうまい。
私を騙しているのかもしれないという疑惑もある。
頭の中でそんなことを考えたけど、やめた。
今、私と彼に必要なのは意地の張り合いじゃない。

「わかります」

そう言って、彼に私からキスをした。
唇を離した時の彼の顔が赤かったから、まだまだ可愛いものですね、と思って私は笑った。

「渚生。タイ焼きを温めますから、一緒に食べましょう」

冷凍庫にまだ食べていないタイ焼きが残っている。
たくさん。
あの後、一人で食べる気にはなれなくて、ずっと凍ったタイ焼きを眺めていた。
冷凍庫を開ける度。
それが今、ようやく食べることができる。
皿を手に取り、レンジの蓋を開けた。

「そうだね。でも、その前にさ」

渚生は皿を取り上げて笑った。

「もう一度キスしてからにしてよ」

それは甘いタイ焼きを食べる前だったのに私には甘く感じるキス。
これが恋。
私は生まれて初めて恋を知ったのだった。
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