優秀な姉よりどんくさい私の方が好きだなんてありえません!
そんな私を渚生はわかっていて、私が拒むかどうかギリギリのラインでいつもかわす。
今みたいに。
彼は私との駆け引きでスリルを味わっているのかもしれない。
シャワーを浴びて出てくると、コーヒーのいい香りがリビングに漂い、焼きたてのトーストにはバターがたっぷりのせられ、サラダがガラスの器に入っていた。

「ありがとう。渚生」

ホッとして、コーヒーを一口飲んだ。
苦いはずのコーヒーは幸福感で微かな甘味がある。
渚生がいてよかった。
私は頑張れる。
たとえ、会社で必要とされてなくても―――


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「安島社長と最近できたフレンチレストランで食事をしたのよ」

「えー!いいですね。うらやましーい」

「予約、なかなかとれないところじゃないですか?」

「そうだけど、私のためにちょっと頑張ってくれたみたい」

秘書室は水和子さんが来てからというもの毎日、この調子で仕事も遅々として進んでいない。

「勤務中です。静かになさってください」

見かねて注意すると水和子さんは私を笑った。

「勤務中?今園さんは仕事もないのに今日も出勤?黙って掃除してたら?」
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