優秀な姉よりどんくさい私の方が好きだなんてありえません!
「そうですか」

平静を装い、真顔で頷いた。

「外で会えたらいいんだけどな」

会うのはほとんど私のマンションだけ。
半同棲中のようなものだ。
私が住むマンションは尾鷹所有のマンションでセキュリティがしっかりしている上に敷地が広く、入り口からマンションまでの距離があり、カメラマンが入り込もうとしても入れない。
タクシーを降りるのはマンションの玄関で降りるため、写真を撮ることなど不可能。
会長夫妻から頂いたマンションだったけれど、こんなことになるとは思わず、本当に助かっている。
彼の俳優としての秘密を守れるのだから。
私という秘密が―――

「結婚しようか」

「は?」

「それなら、問題なく堂々と外で会えるよ」

「駄目です。今、一番大切な時ではありませんか?」

「そんなこと言っていたら、ずっと結婚できないし。『一般女性』って報道されるくらいじゃないかな」

「少なくとも今は無理です。壱哉さんが社長になるまでは」

「壱哉ね……」

ちょっと面白くなさそうにソファーに渚生は転がった。
堂々と歩けたら―――そうね、そうなったらいいわね、ともう一人の私が頭の中で囁いていた。
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