優秀な姉よりどんくさい私の方が好きだなんてありえません!
本心は言葉とはまったく違っていた。
けれど、それを口にするにはまだ早い。
わかっているくせに拗ねたように背を向けている渚生にため息をついたのだった。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

『それでケンカしたってわけか』
 
次の日、壱哉さんから電話がかかってきた。
ケンカではないと思うのですがと否定したかったけれど、渚生から愚痴を聞いているのかもしれないと言葉を飲み込んだ。
それに付き合っていることをなぜ知っているのだろう。
渚生が報告したとしか、思えない―――私がせっかく内緒にしているのにこれではなんの意味もない。

『今園と渚生が仲直りするために俺からホテルディナーをプレゼントしよう』

冗談なのか、本気なのか、壱哉さんは電話越しでそんなことを言った。

「今はそれどこではありません。私は行きません。もし、写真を撮られて週刊誌に載ったらどうするつもりですか」

まったく悪ふざけとかこのことだ。

『今園が行かないと渚生と日奈子が週刊誌に載るかもな』

「それはどういう―――まさか、水和子さんが仕組んだ罠!?」
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