優秀な姉よりどんくさい私の方が好きだなんてありえません!
「こうなったからには俺と結婚してもらうよ?」

「全てあなたの思惑どおりでしょう?」

「そうだよ」

目を細め、悪い顔をして唇を重ねた。
私に罠を仕掛けるなんて、とんでもなく悪い男。
どこから、どこまで渚生の思い通りにされたのか。
自分の記憶を探っていた。

「小耶子、俺に集中して?」

「渚生……誰かに見られたら……」

「いまさら?」

メガネを外して渚生は笑い、私の腕をつかんだ。
深いキスは私の思考を奪って、余計なことを考えさせてはくれない。
今はこの一瞬の幸せを味わえということなのかも―――このプロポーズの瞬間は一生に一度しかないのだから。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

会場に入ると何か不手際があったらしく、大騒ぎになっていた。
日奈子さんのイベントは終わり、今日は水和子さんが担当するイベントのはず。
そんな騒ぎを物ともせず、渚生は壱哉さんを見つけると軽い口調で言った。

「週刊誌に書かれちゃってさ。会見、開くから、騒ぎが収まるまでは彼女のことを壱哉に頼みにきたんだ」

イベントがこのまま中止か続行かという声が飛び交う中、壱哉さんは冷静だった。
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