優秀な姉よりどんくさい私の方が好きだなんてありえません！

まるでこうなることがわかっていたかのように。
きっと―――わかっていたのだろう。壱哉さんには。
しかも、私と渚生が現れたことの方が興味があったらしく、こっちに顔を向けていた。
壱哉さんは私と渚生の指に視線を落とし、微かに笑ったような気がした。
勘のいい人だ―――それとも二人は共犯者？
そんな疑惑が頭をよぎった。

「会長宅に連れていくしかないな」

わざとらしいため息を吐いた。

「今園らしくない」

そう言った壱哉さんは笑っていた。
これは共犯。
二人の共謀。
そう確信した。
もしくは壱哉さんが渚生を煽ったに違いない。
さしずめ『このままだと一生、あいつは日陰の身だな』なんて渚生に吹き込んだのはわかってるんです―――そう思って微笑んだ。

「申し訳ありません」

壱哉さんには敵わない。
それも当然の事。
彼は尾鷹の若様、そして尾鷹の社長となる人なのだから―――

◇　◇　◇　◇　◇

会長夫妻が滞在する尾鷹の持ち家には高い壁が張り巡らされて、SPもいる安全な場所だった。
確かにおかしな人間は簡単には入れないだろうけど、渚生ともしばらくは気軽に会えない。

「荷物はこれだけ？」