優秀な姉よりどんくさい私の方が好きだなんてありえません!
「えっ?四月から?尾鷹の会社?」

「聞いてないの?あなたのお姉さん、水和子(みわこ)さんが尾鷹家に頼みに来たのよ。どこでもいいから、ドン子を働かせてくださいってね」
「お姉ちゃんがっ!?」
 
杏美ちゃんはぷぷっと笑った。

「水和子さんと大違いね。というより、お姉さん達と大違い」

「う……」

否定できない。
私の姉は二人いる。
尾鷹商事で働く長女の水和子お姉ちゃんと女優の緋瞳(ひとみ)お姉ちゃん。
二人とも美人で頭がよくて、運動神経もいい。
それに比べて、私ときたらオール平均点と言いたいところだけど、運動能力は平均以下。
その鈍臭さから『ドン子』と呼ばれてしまう始末。
きっと姉二人が生れる時に私の分まで知能や美貌、運動能力を持って行ってしまったのかもしれない。
できたら、残しておいてほしかった……。

「ドン子。四月から私の家の会社で働くんだから、しっかりしなさいよ。それを言いにきたの。わかったわね」

「うん……わかった」

「『はい』でしょ!?敬語を使いなさいよ!」

杏美ちゃんは最後まで怒っていた。
言いたいことだけ言って、満足したのか、言い終わると黒塗りの車に乗り、去って行った。
もしかして、私がどこも就職先が決まらなくて、落ち込んでいたのを知っていたから、わざわざ教えに来てくれたのかなあ。
口は悪いけど、気のいいところあるんだよ。杏美ちゃん。
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