優秀な姉よりどんくさい私の方が好きだなんてありえません!
水和子お姉ちゃんはきっと私の鈍臭さに呆れてる。
お姉ちゃんの評判まで落とすわけにはいかない。
うつむき、黙って書類をかき集めた。
どうしてこんなにトロいんだろう。
自分で自分が嫌になる―――自嘲気味に笑って誤魔化すしかなかった。
周りに笑われながら、一人で拾っていたはずが、突然、大きな手が書類を拾いあげたのが目の端に入った。

「大丈夫か?」

低い声がした方に顔を向けると、自分の近くに凛として整った顔があった―――まさかの壱哉さんが目の前にいて、床に書類を拾ってくれている。

「い、壱哉さん!?す、すみません。戻るの遅かったですか!?」

「いや、心配で」

心配!?
事件や事故なんて、社内だから起きないと思うけれど……。
失敗した私を怒らず、黙々と書類を集めるのを手伝ってくれた。

「せ、専務!専務がそんなこと!」

さっきまで笑っていた人達が席を立ち、落ちた書類をあっという間に拾ってくれた。
お礼を言おうとした私の手から書類の束を奪った。

「集めた書類が落ちますからっ!」

なぜか向こうの方が涙目になっていて、なんだか申し訳なかった。

「戻ろう」

「は、はい!」

書類の束を壱哉さんがさっと持ち、私には原本を持たせた。
逆な気がするけど。
営業部の人達ははらはらとその様子を見ていた。
そういえば、水和子お姉ちゃんは?といたことを思い出して、さっきまでいたはずの場所を見たけれど、もう水和子お姉ちゃんの姿はなかった―――
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