優秀な姉よりどんくさい私の方が好きだなんてありえません!
早足で杏美ちゃんは歩いてエレベーターに乗ると社長の娘だけあって、みんな、エレベーターに乗るのを遠慮して乗ってこなかった。
杏美ちゃんの顔が怖かったせいもあるだろうけど。
駐車場に行き、『ほらっ!はやくっ!』と私の背中を押して車に乗せた―――というより、車に詰め込んだ。

「ひ、ひどい。なにも突き飛ばさなくても」

「ごちゃごちゃとうるさいわね」

運転手さんが困惑気味に私と杏美ちゃんを見たけど、杏美ちゃんは気にしていない。

貴戸(きど)。なるべく会社から離れて」

「はい」

運転手の貴戸さんは杏美ちゃんの無茶ぶりに慣れているのか、会社から遠ざかり、尾鷹(おだか)家のある町を出ると、離れた河川敷横に車をとめた。

「降りるわよ」

「うん?」

まさか、決闘?
この河川敷で私と杏美ちゃんの決闘でも始まるの?
身を守るようにバッグを抱えていると杏美ちゃんが振り返った。
な、なに!?

「ドン子。水和子さんが秘書室にきて、今園(いまぞの)室長に妹の専務付き秘書を辞めさせてくださいって言ってたわよ」
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