優秀な姉よりどんくさい私の方が好きだなんてありえません!
「壱哉さんは優しいし、一緒にいて楽しいよ」

杏美ちゃんの言うような人じゃない。

「ドン子がお兄様を好きになるのは自由よ。けど、お兄様には自由は少ない。それを覚えておくのね」

「杏美ちゃんは?」

「私?」

「うん。杏美ちゃんは大丈夫なの?」

一瞬、杏美ちゃんは泣き笑いのような表情を浮かべた。

「バカね。人の心配してる場合じゃないでしょ」

「で、でも。壱哉さんの自由が少ないなら、杏美ちゃんだって」

「私のことはいいの」

杏美ちゃんは笑った。

「はあ、ドン子と話してると疲れるわ。帰るわよ」

私の腕を掴み、車に戻った。
私と杏美ちゃんが車に乗るなり、貴戸さんが聞いてきた。

「なにをなさっていたんですか?杏美さん」

「友人同士の語らいよ。話は終わったから。ドン子を送って行って」

「はい」

まるで杏美ちゃんは監視されてるみたいで驚いたけど、これがお金持ちの生活なのかな?
杏美ちゃんの顔を見たけど、不機嫌そうにしているだけで何も言わなかった。
自分の事は。
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