優秀な姉よりどんくさい私の方が好きだなんてありえません!
「そうなの?転びそうになっただけじゃなくて?」

「お兄様も気づいてるわよ。だから、あの機嫌の悪さなのよ。さっき見たでしょ。あの怖い顔」

だから―――あんなこと。
今になって、思い出して赤面していると杏美ちゃんが呆れた顔で私を見ていた。

「ドン子……」

『立場の違いを思い知りなさいよっ!』とか『ドン子のくせにお兄様に触るんじゃないわよ!』とか?
慌てて顔を引き締めようとしたけど、無理だった。
緩んだ顔は元には戻らず、杏美ちゃんに言い訳するしかなかった。

「さっ……さっきはっ……その、びっくりしたけど、きっと昨日のお酒が残っていたんだよね」

「お兄様が二日酔いになった所を一度も見たことないわ」

「そ、そう」

「だから、あれは本気よ。まずいことにね」

「まずいって。ケーキ、おいしいよ?」

べしっと頭を叩かれた。

「ひ、ひどい!」

一度ならず、二度までも!

「ドン子」

「なに?」

「お兄様のこと、どう思ってる?」

「正直に言っていいの?」

「いいわよ」

どうぞ?と、杏美ちゃんがうなずいた。
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