優秀な姉よりどんくさい私の方が好きだなんてありえません!
私はインフルエンザだと嘘をついて休んでいるから、問題はないけれど、仕事をする気になれなかった。
これから、なんのために私は頑張って行けばいいの?
今まで壱哉のそばにいるためだけにやってきた私は目標となるものがなかった。
キッチンに行くと日奈子が用意した昼食のおにぎりが置いてあった。
メモには『冷蔵庫におかずとゼリーが入ってます』と書いてある。
ぐしゃりとそのメモを握りつぶした。
今は壱哉の側にいる人間を見たくない。
もう私には壱哉の側にいる資格を失ってしまったから。
冷蔵庫を開けると、ミネラルウォーターだけでお茶がなかった。
日奈子が買い忘れたのだろうけど、あのぼんやりした妹はどうして買い物一つ、まともにできないのかしら。
コンビニに行くのに服を着替えた。
だらしない姿で町の中を歩くわけには行かないとまだ思っている自分がいて、おかしかった。
もう壱哉にふさわしい完璧な私を演じなくていいのにね。
家の外に出ると桜はもう散ってしまって、春の明るい日差しが私を照らしていた。
今、そんなあかるくし気分ではないのに―――

「水和子ちゃんじゃない?」

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