優秀な姉よりどんくさい私の方が好きだなんてありえません!
「日奈子、パン焼いて」

「う、うん」

時間、大丈夫かなあと思いながら、パンを焼いてコーヒーを出した。
ハッと時計を見るともういい時間だった。

「今日から仕事だから、もう行くねっ!」

「待って。日奈子。クリーニングに出す服の袋を忘れてるわよ」

「えっ!で、でも」

クリーニング屋は駅より向こうで寄っていたら遅刻してしまう。

「緋瞳お姉ちゃん、出しておいてもらえない?私、今日から仕事で遅刻するから」

「私、女優なのよ?わかる?そんなクリーニング屋に行ってみなさいよ。『女優の緋瞳が自分で洗濯せずになにもかもクリーニングか!?』なんて週刊誌に書かれるわよ」

「で、でもっ」

「その点、日奈子はいいわよね。なにしていても目立たないし?」

結局、口では勝てずに押し黙ると、緋瞳お姉ちゃんが勝ち誇ったかのように笑った。

「ちゃんとだしておいてよ。それ、今週中に着る服だから」

しかたない。
走れば間に合うかもしれない。
慌てて家を出た。
今は言い争っていた時間すら、もったいなく感じた。
走っているけど、運動音痴の私はやっぱり足が遅い。

「全力なのにー!」

登校中の小学生がふざけて走ったスピードにすら負けた。
ま、負けるもんか!
そうムキになったのが悪かった―――
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