優秀な姉よりどんくさい私の方が好きだなんてありえません!
「そうか、よかった」

ホッとしたように壱哉さんは言った。
壱哉さんでもそんな緊張気味に言うことがあるんだなぁと思いながら、その横顔を盗み見ていた。
でも、話ってなんだろう。
会社に着くと、社員が壱哉さんに近寄ってきた。

「おはようございます。専務。ご結婚が決まったそうでおめでとうございます」

けっ……結婚――――!!!!

「結婚式は六月だとか」

「そうらしいですね」

まるで他人事みたいに言っている。
もしかして、今日の食事は『結婚することになったんだ。さようなら、日奈子』的な!?
やっと恋してもいいんだってなった所にいきなり『完』みたいな?
くらっと眩暈がした。
終わった……終わったよ。さよなら、私の恋。

「杏美さん、おめでとうございます」

あ、杏美さん!?

安島(あじま)常務、おめでとうございます」

安島常務?
ハッとして、会社の入り口を見るとにこにこした安島常務と機嫌の悪い杏美ちゃんがいた。

「あ、杏美ちゃんが結婚っ!?」

「そうよ、ドン子。お先に」

そう杏美ちゃんは言ったけど、少しも嬉しそうじゃなかった。
表情も固いし。
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