優秀な姉よりどんくさい私の方が好きだなんてありえません!
「そんなことまで覚えているんですか?」

思わず、顔をあげた。
私は自分の事なのにすっかり忘れていた。
たしか……。
浦島太郎の亀その三だった。
セリフなしで丸まっているだけの役。
子供達にいじめられて終わるだけで、その後の登場シーンはない。
ちなみに杏美ちゃんは乙姫様だった。
壱哉さんの学年は白雪姫で、水和子お姉ちゃんが白雪姫、王子様は渚生(しょう)君だった。
王子様をやりたくなかった壱哉さんが魔法使いに立候補したと後から、渚生君が言っていた。
その学芸会がきっかけで渚生君は芸能事務所にスカウトされたんだよね。
次の年、ピーターパンを演じた緋瞳お姉ちゃんも同じように芸能事務所に入って、そこからはもう私は完全に家では完全に空気か観葉植物みたいに目立たない子になってしまった。
そんなことを思い出している場合じゃなかった!!!

「壱哉さんをソファーで寝かせてしまって、そのっ……申し訳なくっ…」

「いい。一緒に眠ろうと思っていたけど、無理だった」

「私の寝相が悪くて!?」

くしゃと手が髪にふれて私の頭を撫でた。

「いや、我慢できなくなるから」
< 88 / 302 >

この作品をシェア

pagetop