優秀な姉よりどんくさい私の方が好きだなんてありえません!
「水和子お姉ちゃん?」

こんな仕事中になんだろう。
緊急の用事かもしれない。

「もしもし?お姉ちゃん。どうしたの?」

『ちょっと用事があるの。非常階段まできて』

「え!?階段?」

どうして階段?
そう思いながら。水和子お姉ちゃんが会社で私を呼ぶなんて珍しいと思っていた。

「水和子お姉ちゃん?」

階段には誰もいない。

『日奈子は壱哉が好きなの?』

もしかして、壱哉さんが水和子お姉ちゃんに私と付き合っていると言ったのかな。
こんな早く?
色々、思い出していると返事をしないと思ったのか、水和子お姉ちゃんは笑った。

『もういいわ』

会話が終わり、一方的にきられた。
なんだったんだろう。
首を傾げながら、部屋に戻り、また書類整理にとりかかった。
まさか、水和子お姉ちゃんが私を罠にはめてまで、壱哉さん付きの秘書を辞めさせようとしているとは思いもよらず、壱哉さんと恋人になったことに浮かれて、水和子お姉ちゃんからの不自然な電話のことなんてすっかり忘れてしまっていた―――
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