悪女と呼ばれた聖女が、聖女と呼ばれた悪女になるまで
誤解 ※サブリナ視点※
サブリナは子爵令嬢だったが、王妃に可愛がられていた。
社交界デビュー前だったが、五歳の時から年に一回、父親が隣国から戻ってくる時には一緒に王宮に行き、父親が国王と話している間は王妃やリカルドと、美味しいお菓子を食べて笑い合っていた。
「何て可愛らしい」
「サブリナ。また面白い話を、聞かせてくれ」
サラサラした長い金の髪と、大きな緑の瞳。王宮に来るからとドレスを着て、にこにこ笑って話すサブリナは二人から、人形か愛玩動物のように扱われていた。
けれど、サブリナはそのことには気づかなかった。むしろ小言がうるさい母親とは違い、二人ともいつも笑顔を向けてくれる優しい人達だった。
だから父親が伯爵となり、更にリカルドの婚約者に選ばれて王宮で暮らすことになっても、サブリナには全く不安はなかった。むしろ母親から叱られることなく、華やかな王宮で今まで以上に楽しく過ごせると思っていた。
……思っていた。そう、過去形である。
「王太子妃となるのだから、あなたはもっと礼儀作法や学問を学ばなければ」
「……えっ?」
「子爵令嬢なら、笑っているだけで良いですが……伯爵令嬢となり、更にリカルドの妻となるのならば、もっと気高く賢くなければいけません」
そうサブリナに言った王妃の顔に、今までのような笑みはなかった。手のひらを返すような言葉に、サブリナは己を全否定された気がして愕然とした。
それ故、サブリナがリカルドに王妃に言われたことを泣きながら訴えると――リカルドは、拗ねたように唇を尖らせながら言った。
「母上は、いつもそうだ。僕にも、王子らしくしろとうるさいんだ」
「リカルド様ぁ……」
「だから、あまり思いつめて無理をするなよ? サブリナは泣いて勉強するより、そうやって笑っているのがいいんだから……僕がサブリナの話を聞くから、何かあれば話してくれ」
「ありがとうございます! リカルド様にお話して、よかったぁ」
その言葉に安心してサブリナが涙に濡れた頬を緩めると、リカルドは今までのように笑ってくれた。
……この時、サブリナとリカルドはそれぞれ勘違いをした。
サブリナは、妃教育を完璧にこなさなくてもリカルドには嫌われないし、いつでも話を聞いてくれると思った。
そしてリカルドは、いなくなったミレーヌの代わりにサブリナを母親から庇おうとしたが――言わなくても妃教育を頑張ってくれると思ったし、まさか毎日のように妃教育の愚痴を訴えてくるとは思わなかったのである。
社交界デビュー前だったが、五歳の時から年に一回、父親が隣国から戻ってくる時には一緒に王宮に行き、父親が国王と話している間は王妃やリカルドと、美味しいお菓子を食べて笑い合っていた。
「何て可愛らしい」
「サブリナ。また面白い話を、聞かせてくれ」
サラサラした長い金の髪と、大きな緑の瞳。王宮に来るからとドレスを着て、にこにこ笑って話すサブリナは二人から、人形か愛玩動物のように扱われていた。
けれど、サブリナはそのことには気づかなかった。むしろ小言がうるさい母親とは違い、二人ともいつも笑顔を向けてくれる優しい人達だった。
だから父親が伯爵となり、更にリカルドの婚約者に選ばれて王宮で暮らすことになっても、サブリナには全く不安はなかった。むしろ母親から叱られることなく、華やかな王宮で今まで以上に楽しく過ごせると思っていた。
……思っていた。そう、過去形である。
「王太子妃となるのだから、あなたはもっと礼儀作法や学問を学ばなければ」
「……えっ?」
「子爵令嬢なら、笑っているだけで良いですが……伯爵令嬢となり、更にリカルドの妻となるのならば、もっと気高く賢くなければいけません」
そうサブリナに言った王妃の顔に、今までのような笑みはなかった。手のひらを返すような言葉に、サブリナは己を全否定された気がして愕然とした。
それ故、サブリナがリカルドに王妃に言われたことを泣きながら訴えると――リカルドは、拗ねたように唇を尖らせながら言った。
「母上は、いつもそうだ。僕にも、王子らしくしろとうるさいんだ」
「リカルド様ぁ……」
「だから、あまり思いつめて無理をするなよ? サブリナは泣いて勉強するより、そうやって笑っているのがいいんだから……僕がサブリナの話を聞くから、何かあれば話してくれ」
「ありがとうございます! リカルド様にお話して、よかったぁ」
その言葉に安心してサブリナが涙に濡れた頬を緩めると、リカルドは今までのように笑ってくれた。
……この時、サブリナとリカルドはそれぞれ勘違いをした。
サブリナは、妃教育を完璧にこなさなくてもリカルドには嫌われないし、いつでも話を聞いてくれると思った。
そしてリカルドは、いなくなったミレーヌの代わりにサブリナを母親から庇おうとしたが――言わなくても妃教育を頑張ってくれると思ったし、まさか毎日のように妃教育の愚痴を訴えてくるとは思わなかったのである。