悪女と呼ばれた聖女が、聖女と呼ばれた悪女になるまで
浅短 ※リカルド視点※
「リカルド様ぁ……皆が、私を虐めます!」
「……サブリナ」
「勉強だけでも大変なのに、ヘラヘラ笑うなとか、もっと慎みを持てとか……駄目出しばかり!」
妃教育の後で、夕食の前の僅かな時間。リカルドは今日も、サブリナから妃教育や王宮生活の愚痴を聞かされていた。
自分が言ったことなので、婚約者になって王宮に来た八歳から十二歳になるまでずっと、サブリナに付き合ってやっているが――リカルドは、授業を聞くだけで大体理解出来る。だからそもそも、サブリナが「勉強が大変」と言うのが解らない。
(サブリナは可愛いけど、馬鹿なんだな)
口には出さないが、リカルドはそう思っていた。だからこそ、理解出来ないことは笑って誤魔化そうとするし、男女問わず甘えて逃げようとする。それ故、周囲から叱られてばかりなのだ。しかもそのことに、本人が気づいていないのがまた馬鹿である。
しかし父である国王から、女性が変に賢いのも面倒臭いと言われているので、リカルドは仕方ないと諦めていた。明言はしていないが父が言っているのは妻であり、リカルドの母である王妃のことだと思われる。母に比べれば、サブリナは愚痴や怠け癖はあるが、リカルドの行動には口出ししてこないのでまだマシだ。
……そこまで考えて、リカルドはかつての初恋の相手を思い出した。
(ミレーヌ……)
彼女は、リカルドの家庭教師になれるくらい賢かった。けれどそれをひけらかすことなく、むしろリカルドの話を静かに聞いてくれたし、長所を見つけては褒めてくれた。その笑顔を見るだけで癒されたし、守ってあげたくなった。
(きっと、父上も同じだったんだろう)
急にミレーヌが辞めた頃には知らなかったが、今では彼女が父のお手付きになり、母に解雇されたと知っている。もう行方が知れないが連日、サブリナの愚痴を聞かされていると自分も誰かに話を聞いてほしいと思うことがある。実際は今はいないミレーヌ以外に口を滑らせると、母に伝わってまたサブリナが怒られ、サブリナに文句を言われるので出来ないが。
「だから、気晴らしにお茶会を開きたくて……お茶会用の新しいドレスも欲しいのに、それも駄目だって」
「ドレスはこの前、買ってあげただろう?」
「同じものを着ていったら、ドレス一枚買えないのかと馬鹿にされますわ!? でも、前はリカルド様に素敵なドレスを買って頂いたから……迷惑を、かけたくなくて。それで王妃様に言ったら、子供がこれ以上無駄遣いするなって」
唇を尖らせるサブリナは、可愛い。あと図々しくはあるが、リカルドに遠慮するのも可愛い。と言うか、もしかしたらサブリナは王室助成金のことを知らないのだろうか?
「サブリナ? 僕の婚約者である君は、王族の一人だ。そして王族には、王室助成金が毎年割り振られているんだぞ? 外出費や交流費もそこから出せるし、君のドレスや前のお茶会の経費も、僕の王室助成金から出したんだ」
「そうなんですか!? 王妃様から、聞いてません! 買いたいものがあったら、自分に言えって」
「ああ。だから、母上は通さず……ちょうど良い。君の父上である、ロイド伯爵に頼もう。新しいドレス代やお茶会を開催する費用が欲しいって」
「はい! ありがとうございますっ」
お礼を言って笑うサブリナは、本当に可愛い。だからリカルドも、つられて頬を緩ませた。
ドレスを買わされていたサブリナの父であるロイド伯爵が、これ幸いと飛びつくのだが――王室助成金が民からの税金だということに、三人とも気付いてはいなかった。
「……サブリナ」
「勉強だけでも大変なのに、ヘラヘラ笑うなとか、もっと慎みを持てとか……駄目出しばかり!」
妃教育の後で、夕食の前の僅かな時間。リカルドは今日も、サブリナから妃教育や王宮生活の愚痴を聞かされていた。
自分が言ったことなので、婚約者になって王宮に来た八歳から十二歳になるまでずっと、サブリナに付き合ってやっているが――リカルドは、授業を聞くだけで大体理解出来る。だからそもそも、サブリナが「勉強が大変」と言うのが解らない。
(サブリナは可愛いけど、馬鹿なんだな)
口には出さないが、リカルドはそう思っていた。だからこそ、理解出来ないことは笑って誤魔化そうとするし、男女問わず甘えて逃げようとする。それ故、周囲から叱られてばかりなのだ。しかもそのことに、本人が気づいていないのがまた馬鹿である。
しかし父である国王から、女性が変に賢いのも面倒臭いと言われているので、リカルドは仕方ないと諦めていた。明言はしていないが父が言っているのは妻であり、リカルドの母である王妃のことだと思われる。母に比べれば、サブリナは愚痴や怠け癖はあるが、リカルドの行動には口出ししてこないのでまだマシだ。
……そこまで考えて、リカルドはかつての初恋の相手を思い出した。
(ミレーヌ……)
彼女は、リカルドの家庭教師になれるくらい賢かった。けれどそれをひけらかすことなく、むしろリカルドの話を静かに聞いてくれたし、長所を見つけては褒めてくれた。その笑顔を見るだけで癒されたし、守ってあげたくなった。
(きっと、父上も同じだったんだろう)
急にミレーヌが辞めた頃には知らなかったが、今では彼女が父のお手付きになり、母に解雇されたと知っている。もう行方が知れないが連日、サブリナの愚痴を聞かされていると自分も誰かに話を聞いてほしいと思うことがある。実際は今はいないミレーヌ以外に口を滑らせると、母に伝わってまたサブリナが怒られ、サブリナに文句を言われるので出来ないが。
「だから、気晴らしにお茶会を開きたくて……お茶会用の新しいドレスも欲しいのに、それも駄目だって」
「ドレスはこの前、買ってあげただろう?」
「同じものを着ていったら、ドレス一枚買えないのかと馬鹿にされますわ!? でも、前はリカルド様に素敵なドレスを買って頂いたから……迷惑を、かけたくなくて。それで王妃様に言ったら、子供がこれ以上無駄遣いするなって」
唇を尖らせるサブリナは、可愛い。あと図々しくはあるが、リカルドに遠慮するのも可愛い。と言うか、もしかしたらサブリナは王室助成金のことを知らないのだろうか?
「サブリナ? 僕の婚約者である君は、王族の一人だ。そして王族には、王室助成金が毎年割り振られているんだぞ? 外出費や交流費もそこから出せるし、君のドレスや前のお茶会の経費も、僕の王室助成金から出したんだ」
「そうなんですか!? 王妃様から、聞いてません! 買いたいものがあったら、自分に言えって」
「ああ。だから、母上は通さず……ちょうど良い。君の父上である、ロイド伯爵に頼もう。新しいドレス代やお茶会を開催する費用が欲しいって」
「はい! ありがとうございますっ」
お礼を言って笑うサブリナは、本当に可愛い。だからリカルドも、つられて頬を緩ませた。
ドレスを買わされていたサブリナの父であるロイド伯爵が、これ幸いと飛びつくのだが――王室助成金が民からの税金だということに、三人とも気付いてはいなかった。